KISS

キスをされた。
しかもいきなり、何の予告も無く…。

「奪っちゃった」





☆☆☆☆☆☆




いつもと変わらない穏やかな昼休み。
ツナと獄寺と山本といつも通り屋上で弁当を食べ、他愛のない会話を楽しみ、 昼前から先生に用事を頼まれていたツナが屋上を後にするまでは本当にいつもと何一つ変わらない時間だったのだ。

相手に合わせるというのが嫌いな獄寺は山本と二人きりになっても特に話す事もなく(…というか、話したくないと表現したほうがしっくりくるのかもしれない)屋上の床にごろりと仰向けに寝っころがる。
そうすると視界いっぱいに鮮やかな空の色が広がった。

「…………」
「…………」

流れる沈黙。
でもそれは居心地の悪い沈黙ではなく、心地の良い沈黙。

もともと一人でいる方が好きな獄寺は今の空間に満足してゆっくりと目を閉じた。

熱い夏が過ぎ、だんだんと秋へと近づいているからなのか今日は日差しも強くなく流れる風も程よい…。

(このまま昼寝して午後の授業さぼっちまおうかな)

そんな事を考えていたら、何か温かいモノが一瞬唇に触れたような気がした。
触れる…というよりも掠める…そんな感じ。

…きっと勘違いだろう。

獄寺は気にする事なく、夢の世界へと船を漕ぎ始めようとした時。
また同じ感触が唇に触れた。

今度は一瞬ではなくしっかりと。

「!!」

今度ははっきりと自覚する。
これはキスというものなのか!?

誰もが認めるマフィアになるために日々精進してきた獄寺は恋愛経験はまったくのゼロ。
だからこれは人生生まれて初めてのキスである。

あまりの衝撃に抵抗する事も出来ずしばらく呆然としていたが、この状態のままいる訳にもいかないと思った獄寺は勇気を持って目を開けた。

さっきまでは鮮やかな青色の空が視界に広がっていたのに、今は視界いっぱいにいけ好かない山本の顔。


「あ、起きちゃった?」


目を開いた獄寺とばっちり目があった山本は悪びれも無く言った。

「奪っちゃった」

何で山本が俺に!?

いまいち今の状況が飲み込めない獄寺に向かって山本が冗談っぽく小首を傾げながらまた言った。


いつもなら大量に隠し持ってるダイナマイトを容赦なく投げつけ再起不能になるくらいぶちのめすのだが、頭の中が真っ白で何も行動できない。

呆然自失

言葉で表現するならそれがぴったりだ。


「そろそろ昼休み終わるぞ」


山本が笑いながら言うとまだ呆然としている獄寺の頭をぽふぽふと軽く叩き、何事もなかったように普通に屋上から出ていった。



「………………………」



キ…ス…さ…れた?



ようやく動き出した頭。それと同時に金縛りにあったみたいに動かなかった体も徐々に軽くなってくる。

ゆっくりと唇に触れてみた。

するとダイレクトにさっきの感触が蘇ってきた。
指とはあきらかに違う感触。
少しかさついてたけど…熱く、柔らかい。



「ち…っき…しょう…」



度数の高いアルコールをストレートで一気に飲み干した時みたいにかっと全身が熱くなり…何だか大声で叫びたくなり、生々しい感触が残る唇を何度も何度も拭った後に叫んだ。

「山本の奴…絶対に許さねぇからな!!」



さっきは何も報復が出来なかったが今なら出来る。

獄寺は勢いよく起き上がりダッシュで屋上を後にした。


バタン!と勢いよく屋上の扉が締まったと同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。





ネタ考え中に某CM風に「奪っちゃった」という山本が浮かび(イタイ)、それを書きたかっただけなのです…。




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